2012年1月27日金曜日

山路を登りながら




山路を登りながら、

かう考えた。

智に働けば角が立つ。

情に棹させば流される。

意地を通せば窮屈だ。

兎角に人の世は住みにくい。

住みにくさが高じると、

安い所へ引き越したくなる。

どこへ越しても住みにくいと悟った時、

詩が生まれて、畫(え)が出來る。

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We look before and after     And pine for what is not:
Our sincerest laughter     With some pain is fraught;
Our sweetest songs are those that tell of saddest thought.

「 前をみては、後えを見ては、物欲しと、あこがるるかなわれ。

腹からの、笑といえど、苦しみの、そこにあるべし。

うつくしき、極みの歌に、悲しさの、極みの想、籠るとぞ知れ 」

なるほどいくら詩人が幸福でも、

あの雲雀のように思い切って、

一心不乱に、前後を忘却して、

わが喜びを歌う訳には行くまい。

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ピアニスト 
グレン・グールドが
「二○世紀の小説の最高傑作」と評価した

夏目漱石 草枕 より

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